大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和49年(手ワ)711号 判決

原告

旭調温株式会社

右代表者

江田章造

右訴訟代理人

一井淳治

右同

河田英正

被告

大栄電設株式会社

右代表者

松田一俊

右訴訟代理人

坂本義典

右同

山本淳夫

主文

被告は原告に対し金一二〇万円及びこれらに対する昭和四九年五月二三日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行できる。

事実《省略》

理由

第一二重起訴の検討

本件約束手形金請求手形訴訟提起前に、本件被告を原告とし、本件原告を被告として本件約束手形につき手形金、利息金の支払義務がないことを確認する旨の判決を求めて手形債務不存在確認請求事件(当裁判所昭和四八年(ワ)第一〇二四二号)を提起し当裁判所に係属していることは当裁判所に顕著な事実である。

そこで、この両事件が民事訴訟法二三一条の重複起訴にあたるか否か、その処理方法につき検討する。

右両事件のように債権の消極的確認の訴が提起されている場合にさらに給付の訴を提起することについては、消極的確認請求の棄却は給付判決とならないので、給付請求の方が大きく同一事件の重複起訴に当らないとの説もあるが、単なる債権の積極的又は消極的確認の訴は必ずしも現在の給付請求の当否と直結しないので事件の同一性に問題があるとしても(大判昭七・九・二二民集一一巻一九八九頁)、本件のように現在の給付義務(手形金支払義務)の不存在確認の訴と給付の訴とはいずれも同一当事者間において同一の本件手形に基づく手形金、利息金の支払義務につき、後者が積極的にその存在を前提として手形金等の支払を求め、前者が消極的にその不存在の確認を求めるものであつて、両請求の求める判決の既判力の範囲は全く同一で訴訟物が同一であるから、本件手形金請求事件は民事訴訟法二三一条の重複起訴にあたるものであり(最判昭四九・二・八金融商事判例四〇三号六頁参照)、このような場合は本来同法二三九条の反訴の形式によつて、給付の請求をなすべきものである。

ところで、同法二三一条の重複禁止がなされるのは、通常、審判の重複による訴訟制度としての不経済、矛盾する判決を誘発することなどの外に、後訴の被告に不要な負担を強いるとともに後訴の原告に訴の利益がないことによるものと考えられ、このような弊害がない場合には同一事件について同一請求原因に関する数個の申立があるに止まるとして前訴の手続を利用し、請求の趣旨の変更(民訴法二三二条)ないし反訴(民訴法二三九条)の形式による実質的な訴の併合が許されているのであるから、重複訴訟に該当する場合にすべて画一的に新訴の提起が禁止され訴の却下をせねばならないものではないと考える。そして、本件手形金請求が常に、前訴の手形債務不存在確認請求訴訟の反訴の形式をもつてなされねばならないとすると手形訴訟による反訴は許されないから手形所持人たる原告は手形の形式的厳正である簡易迅速な手形訴訟制度の利用権を失い、不当な不利益を強いられる結果となる。他方、手形債務者たる被告は先制的に手形金支払義務不存在確認の訴を提記することにより手形の形式的厳正たる手形訴訟制度から功妙に逃れ得ることになり、手形訴訟制度そのものが形骸化する惧も少くないない。したがつて、被告の先制的な右消極的確認の訴によつて原告の手形訴訟制度利用権を奪うことは許されず、原告は新訴として本件手形金請求の手形訴訟を提起する訴の利益があり、被告も手形債務者としてこれに応訴する義務があり、前訴を提起した被告に過重な負担をさせるものとはいえない。

そして、訴訟制度の不経済は手形訴訟制度を設けている以上問題にならないし、判決の予盾は、前訴たる手形金支払義務不存在確認請求の訴訟手続の進行を一時停止して、本件手形判決の異議を待つうえで、その異議事件を前訴に併合し、反訴と同様に取扱い一個の全部判決をもつて終結させることによつて比較的容易に回避することができるのである。

したがつて、本件手形訴訟の提起は前訴と同一事件に関するものではあるが手形訴訟を設けた趣旨および重複起訴禁止の目的に照らし、民事訴訟法二三一条が禁止する「更ニ訴ヲ提起スル」場合に当らないものというべきであるから、これを却下せず、前訴の訴訟手続の進行を一時停止したうえ、本件につき実体判決をすることとする。

第二  本案の判断

原告主張の請求原因事実は全部当事者間に争いがなく、被告主張の抗弁事実中被告主張の工事を原告が仲介したこと、建築士徳永修孝に対するリベートの支払のため本件手形が振出されたものであることは当事者間に争いがないが、その余の抗弁事実はこれを認めるに足る証拠はない。

第三結論

以上のとおりであるから、被告は原告に対し、本件約束手形金及びこれに対する訴状送達の翌日たる昭和四九年五月二三日から支払ずみまでの商法所定年六分の割合による遅延損害金として主文第一項記載の金員の支払義務があることが明らかであり、被告に対しその支払を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(吉川義春)

約束手形の表示〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例